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2010年2月26日金曜日

スプリッタの複数使用は諸悪の根源

スプリッタの複数使用は諸悪の根源

スプリッタを複数使用すると
電話回線は1回線だけなのに、家の中にいくつか部屋があってそのそれぞれにモジュラージャック(MJ)があり、 Aの部屋にADSLモデム+電話機を設置して、Bの部屋にはFAXだけを置いておきたい、Cの部屋のTVにはスカパーが つながっていてPPV用回線をつなげたい、ということはよくあることだと思います。
こういう場合にまず考え付くのは、それぞれの部屋のモジュラージャックに1個ずつスプリッタを取り付けて 電話機やFAXを接続するということです。
ところが、実際にはADSLスプリッタを複数使用すると下記のような問題が起こります。

  • ナンバーディスプレイが使えない。
  • アナログモデムの通信が正常にできない。(遅くなる等)
  • スカパーのPPVが見られない。
  • FAXが使えない。あるいはFAX通信に時間がかかる。
  • 電話の受信はできるが送信ができない。あるいは、一部の電話番号だけかけることができなかったり、 かけると間違い電話になってしまう。
    (具体的には、PB(プッシュホン)信号の3,6,9,#の4つのボタンの信号が送信できなくなるため、これらの数字が 入った電話番号の相手先に電話できなくなったり、間違い電話がかかったりする)
  • 電話品質が悪くなる。


ADSL業者でも、「スプリッタの複数使用はお奨めしません」「スプリッタを複数使用するとトラブルになる場合が あります」とFAQ等で明言しているところがあります。 どうしてスプリッタを複数使用するとトラブルの元になるのでしょうか。

スプリッタって何?
ADSLを使用する場合、スプリッタでADSL信号と電話(音声)信号を分離します。Yahoo!BBのトリオモデムなどでは モデム本体に内蔵されていますが、それでも中でスプリッタが信号を分離していることには変わりがありません。
ADSL信号の方が音声信号より高い周波数を使っているため、ハイパス(高い周波数を通す)フィルタを通した信号を ADSLモデムに、ローパス(低い周波数を通す)フィルタを通した信号を電話機に流すようになっています (注1)

スプリッタの中身
スプリッタの中身はコイルとコンデンサです。
コイルは、それ自体がローパスフィルタとして働きます。(注2)コ ンデンサは、それ自体が ハイパスフィルタとして働きます。(注3) しかし、コイルやコンデンサ単体だと、目的の周波数以上/以下の電流をスパッと切る形にならず、電話機側に 余計な高周波がノイズとして入ってくることになってしまいます。
そのため、コイルとコンデンサを組み合わせることによってもっと切れ味のよいフィルタを作っています。
(実際にスプリッタに入っている回路はもっと複雑ですが、原理は同じです)

スプリッタを複数使用すると何が起こるか
ところが、こういう切れ味のよいフィルタ回路を持ったスプリッタを複数使用すると、困ったことが起こります。
「LC共振」と呼ばれる現象があります。コンデンサとコイルを並列につなげると、特定の周波数をほとんど通さなくなる というものです。(注4)
スプリッタを並列につなげると、下図のようにコンデンサとコイルが並列でつながっているのと同等の回路が出現します。



そのた め、 LC共振が起こって特定の周波数が大きく落ち込むことになってしまいます。この大きく落ち込む周波数というのが、 通常のスプリッタの場合1600~1800Hzあたりに来てしまうようなのです。「ようなのです」ってのも我ながら頼りない 表現ですが、この回路の共振周波数をきちんと計算できるだけの能力も実験する機材もないもので。
幸い、スプリッタを複数使用した場合の周波数特性が POTS スプリッタにかかわる不具合事例の紹介という ページに掲載されています。グラフはこちら。 これを見ると、見事に1600~1800Hzあたりで大幅な落ち込みが見られます。

ナンバーディスプレイやFAXが使えなくなる理由
「スプリッタを複数使用するとナンバーディスプレイやFAXが使えなくなる」という理由は、このLC共振による 共振周波数近辺の落ち込みにあります。ナンバーディスプレイやFAX、スカパーのPPV回線などは、要するに通常の アナログモデムを使っています。例えば、ナンバーディスプレイはITU-TのV.23準拠モデム(最大1200bps(笑))を 利用して電話番号データを送受信するサービスということになります。したがって、V.23の特性周波数(F0) である1700Hzが使えないとV.23モデムがリンクできませんので、ナンバーディスプレイも使えないということになります。

複数利用OKのスプリッタとは
最近、下記のような「複数利用時の問題を解決した」「複数利用OK」のスプリッタやラインセパレータが出回っています。

これらの「ラインセパレータ」が何をしているかについて解説したものがないので正確なところはわかりませんが、 名称から考えると「オンフック(受話器を置いて電話を切った状態)では電気を遮断し、オフフック(受話器を上げた~ 通話状態)では電気を通すようにすることにより、使っていない電話機器につながっているスプリッタのコイルや コンデンサの影響を遮断している」のではないかと思われます。昔(管理人がじじいなので昔の話が多くてすまぬ) あった電話回線の自動選択装置と同じような原理ですかね。
そういうわけで、理論どおり働いてくれるなら効果はあると思いますが、別の問題が発生する可能性もある (今思いつくところでは、こういう余分な回路がついていることによる電圧降下で着信/発信できなくなる というのが可能性として考えられます)ので、可能であれば分岐の元にスプリッタを入れる方がよいと思います。
ただし、YBBのトリオモデムのようにスプリッタ内蔵型ADSLモデムだったり、分岐の元にスプリッタを入れるような 配線変更工事に金をかけたくない(通常1万円近くかかると思います)ということだとこういうラインセパレータを 使うしかないという場合もあるでしょうから、やってみる価値はあるでしょう。(注5)



ラインセパレータを利用する場合、下記の2点に注意する必要があります。いずれも理論上の話なので、場合によっては 守らなくてもちゃんと動作する場合もあるし、守ってもダメな場合もありますので、あらかじめご了承ください。
  1. ラインセパレータを入れる場所に注意してください。スプリッタの手前(スプリッタよりMJに近い方)に入れないと 意味がありません。
  2. 電話線に接続されているすべてのスプリッタの手前にラインセパレータを入れる(またはすべてのスプリッタを ラインセパレータ内蔵タイプに変更する)必要があります。正確に言うと、1つだけ抜けている場合、その抜けている ところのFAX・ナンバーディスプレイ等は正常に働きますが、それ以外のところは通常の複数スプリッタ使用と同じ トラブルが出ます。また、2つ以上抜けている場合は全く意味がなくなってしまいます。
なお、2部屋だけで、しかもPCとモデムがある部屋には電話がないという場合には、単純にモデム側は直結して 別の部屋の電話・FAXだけにスプリッタを取り付ける配線がお勧めです。



ただし、この場合でも、Yahoo!BBのトリオモデム(12M・26M)やACCAのW3モデム(26M・VoIPと無線LAN機能付き)のように スプリッタ内蔵のモデムの場合、モデムの前にラインセパレータを入れないとFAXが使えなくなります。

「ガス自動検針器用ADSLアダプタ」について
最近、ガス自動検針器用ADSLアダプタ、というものが出回っています。
ADSLの普及に伴ってガス自動検針器が悪者になってしまって「とにかく取り外してほしい」といわれることに危機感を 感じたLPガス業者の方で開発したもののようです。回路的にはほぼスプリッタと同様のもののようですが、さすがに 宅内にもう1個スプリッタをつけることを前提として位相管理などに気を遣って開発されているみたいで、FAX等でも 問題は起こらない場合が多いようです。しかし、中にはやっぱりこれをつけてもFAXが使えず、ガス検針器を外したら 使えたなんて話も聞いたことがありますので、外せるなら外してもらった方がベターだと思われます。


注1
低コストのスプリッタだと、電話機側にはローパスフィルタが入っているがモデム側は直結というものもあるようです。
注2
コイルとは電線をらせん状にぐるぐる巻いたものです。そこへ直流(プラスマイナスが決まっている電流)を流すと、 電磁石になって回りに磁界ができますが、電流自体は普通に流れます。ところが、交流(プラスマイナスが周期的に入れ替わる 電流)を流すと、プラスマイナスが入れ替わった瞬間には電流はさっきまで自分が作っていた磁界に逆らって流れなくては ならなくなるために流れにくくなります。
したがって、周波数が高い、プラスマイナスの入れ替えが激しい電流ほどコイルを流れにくくなるため、直流~周波数が低い 交流だけを通すローパスフィルタとして働くことになります。どの程度の周波数まで通すかは、インダクタンス (単位:H(ヘンリー))という数値によって決まってきます。
注3
コンデンサとは、要するに電気を通す金属板を2枚並行に並べたものです。2枚の板の間は絶縁されているため、そのまま では電気を通しません。しかし、これに直流を流すと、流した直後は(例えば)こっち側の板がプラスになったら、それに 対応して反対側の板がマイナスになるため、見た目上電流が流れるように見えます。ところが、すぐに金属板上が電気で いっぱいになり、それ以上帯電できなくなるので電流が流れなくなってしまいます。
ここに交流を流すと、最初に電気がたまって、次はプラスマイナス逆になるので逆にたまってという形で、それなりに電流が 流れるようになります。周波数が高ければ高いほど、板が帯電しきるひまもなくプラスマイナスが逆になるので、ほとんど 通常の電線と同様に電気が流れるようになります。
したがって、コンデンサは高い周波数の交流電流だけを通すハイパスフィルタとして働きます。どの程度の周波数以上を 通すかは、静電容量(単位:F(ファラド))という数値によって決まってきます。
注4
コイルを通った交流電流は、90度位相が遅れます。つまり、電流の波が1サイクル(360度)の1/4だけ遅れる形になります。 コンデンサを通った電流は、逆に90度位相が進みます。そのため、下の図のようにコイルとコンデンサを並列につなげると、 90度遅れた波と90度進んだ波が合流してくるわけで、ちょうど180度ずれますから互いに打ち消しあいます。周波数が低いときは ほぼ100%コイルからの電流であり、高ければほぼ100%コンデンサからの電流なので問題ありませんが、その中間の特定の周波数で コイルからの電流とコンデンサからの電流が等しくなると、打ち消しあって電流が流れないことになります。これが「LC共振」 と呼ばれる現象で、このときの周波数を「共振周波数」と呼びます。
注5
「どうしてADSL業者は最初からラインセパレータ 内臓スプラッタ 内蔵スプリッタを標準添付にしないんだ」 という疑問をお持ちの向きもあろうかと思います。その答えは、「標準規格外になってしまうから」です。
例えば、ELECOMの通常スプリッタラインセパレータ内蔵スプリッタの 紹介ページを見比べてみてください。通常スプリッタの方には「ITU-T G.992.1 Annex E Type4 Japan」という準拠規格が 書いてあるのに、ラインセパレータ内蔵タイプの方には記載がありません。要するに、オンフックの時には電流を遮断する というラインセパレータの機能そのものがG.992.1 Annex Eには合致しないのです。

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